2017年4月8日土曜日

早慶上智・MARCH対決:慶應義塾大法学部VS中央大法学部

 今回の比較対象は、大学レベルでの比較ではライバルとはいいにくい慶應義塾大と中央大学。しかし、中央大学法学部はその歴史の伝統から、MARCHでは別格扱いされている。そのため、今回は両校の「法学部」について、比較していきたい。
 なお、今回の比較においては、恐らく慶應義塾大法学部の方が上との評価になろうが、例えば、中大法学部に合格した受験生が、満足できずに一浪してまで慶應義塾大法学部を目指すべきかどうかについてみていきたいと思う。


※各指標の定義・根拠・出典等については、こちらのページをご覧ください。
 また、スマートフォンで閲覧する場合は、画面を横にすると各指標が見やすいです。


「入学段階では、どちらが優秀な学生が集まっているか」

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
法学部
中央大学
法学部
大学全体の学部生数(人)大学20152885525080
学部の学生数(人)学部201552166158
入試難易度(河合塾)学部20167062.5
入試難易度(駿台)学部20166763
入試難易度(ベネッセ)学部20168479
入学者数(人)学部201612621523
競争入試での入学者(人)学部2016437728
競争入試の割合(%)学部201634.60%47.80%
入試方式の数(競争入試)学部201517
現役入学者の比率(%)学部2016数値なし81.5

 入試難易度は、3社とも慶應義塾大法学部が上の数値となっている。入学時の学力差においては、慶應義塾大法学部が上であることは疑いようのない事実であろう。


「費用対効果はどちらが高いか」

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
法学部
中央大学
法学部
4年間でかかる学費(万円)学部2015457421
学生還元率(%)大学2015128.10%35.70%
奨学費(円)大学20151,583,391,0721,245,994,977
学生一人当たりの奨学費(円)大学20155487449681
卒業率(%)学部20148186
最寄駅の平均家賃(万円)2016日吉5.0~5.5、
三田8.5~9.0
4.5~5

 4年間でかかる学費については、中央大法学部が36万円ほど安い(学科や専攻によって学費が違う可能性があるため、詳細な比較は各大学のホームページをご確認いただきたい)。
 なお、学生還元率については、大学全体の数値であり、慶應義塾大学医学部による「医療収入」によってきわめて高い数値が出ている。両学部の比較には適さないことを付記しておきたい。単純比較が可能であるのは「学生一人当たりの奨学費」であるが、慶應義塾大の方が高額となっている。
 また、キャンパス周辺の家賃を考えてみてると、中央大の方が安く、一人暮らしのコストは中央大の方が安くなるだろう(大学と住居が近ければ利便性も高く、充実した学生生活になる可能性が高いという考えからこの家賃相場を比較している)。
 留年リスク(4年間で卒業できない比率)については、慶應義塾大法学部が6%程度高く、それなりの差がある。一つの判断材料になるかもしれない。
 以上を加味すると、全般的なコストパフォーマンスは、中央大法学部が優位といえるだろう。
 なお、この差については、法曹を目指す学生にとっては重要な差かもしれない。仮に「慶應には落ちて、中大には受かった場合」に浪人するかどうかは、費用対効果がかなり違ってくる。この意味での「効果」は司法試験合格であろうが、中大法学部から慶應義塾大のロースクールに進学するケースも少なくないため、浪人しても効果はあまり違いがないだろう。したがって、強い法曹志望者であれば浪人はせずに中央大に入学した方が良いかもしれない。


「どちらの大学が充実した学生生活を過ごせるか」

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
法学部
中央大学
法学部
キャンパス学部2016日吉(1~2年)
【郊外型】、
三田(3~4年)
【都市型】
多摩【郊外型】
1年以内退学率(%)学部20140.61.3
4年間退学率(%)学部20141.73.1
入学者の地元占有率(%)学部2016数値なし33.3
大学全体の首都圏出身比率(%)大学201557.156.1
女子入学者の割合(%)学部2016数値なし42.2
大学全体の女子学生数(人)大学2016102479064
大学全体の男子学生数(人)大学20161848815757
大学全体の女子学生比率(%)大学201635.70%36.50%
女性ファッション誌登場人数(人)大学201167238
受入留学生数(人)学部2015869
留学生比率
(留学生数/全学生数)
学部20161.60%0.10%
長期留学派遣学生数(人)大学201524785
長期留学派遣の割合(%)大学20153.40%1.40%
ST比(人)学部20154556.5
専任教員数(人)学部2015116109
一人当たり貸出冊数(冊)大学201527.24.8

<キャンパスの立地>
 慶應義塾大法学部は1、2年と3、4年でキャンパスが変わる。1、2年次の日吉キャンパスは「郊外型」というほど田舎ではないが、都心部からは離れる(渋谷から東急線の特急で20分程度かかる)。日吉はベッドタウンとしてのイメージが強く、静かな環境で2年間のキャンパスライフを送れそうだ。とはいいつつも、キャンパスは駅前に位置するため、渋谷や横浜にでるのはかなり便利の良いキャンパスであり、いわゆる「遊びたい学生」にとっても不満はないキャンパスだろう。3年次以降の三田キャンパスは都心部にあり、山手線でいえば最寄り駅は「田町駅」。オフィス街の様相が強いが、学生向けのお店などもそれなりに充実している。
 一方の、中央大法学部は、東京都八王子市の多摩キャンパスで4年間を過ごすことになり、いわゆる典型的な「郊外型キャンパス」である。広々とした環境で4年間を過ごせるが、「都会に出たい」といって上京する学生にとってはやや、物足りないと思うかもしれない。勉強をきっちりやりたい学生にとってはうってつけのキャンパスであろう。
 キャンパスの立地については、ほとんどの高校生は、慶應義塾大の方が魅力的に映るだろうが、こと法曹志望の学生に限って言えば、中央大学法学部の学習環境も捨てがたいのも事実である。

<ドロップアウトリスク>
 続いて、誰しも避けては通れない、ドロップアウトのリスク。せっかく頑張って勉強して大学に入学したのに、退学してしまっては元も子もない。双方とも大規模大学であるため、退学率は注視すべきデータであるが、慶應義塾大法学部の方が低い結果となっている。
 なお、大学通信社による2016年度「面倒見が良い大学」ランキング(進学校の進路指導教員にアンケートを行って選定)においては、慶應義塾大が19位(32ポイント)、中央大が20位(29ポイント)となっており、高校教育の現場における「面倒見の良さ」の印象はほぼ互角である。

<学生の属性>
 大学全体の女子学生比率については、両者でほとんど変わらない。留学生比率については、慶應義塾大法学部の方が高く、国際色豊かな教育環境という意味では、慶應義塾大法学部が優れているといえる。
 上記を総合すると、「多様な価値観に触れる(ダイバーシティ)」という観点では、慶應義塾大法学部が優位といえるだろう。

<教育面>
 次に、教育面を比較していくと、現在、各大学が競うように力を入れている「留学」については、長期留学している学生の割合を見ると、慶應義塾大に軍配が上がりそうだ。先輩の学生が留学に行っている割合が多ければ、自然と留学が身近になるため、もし留学をしたいと考えているのであれば、一つの判断材料にはなりうる。
 専任教員一人当たりの学生数(ST比)は、慶應義塾大法学部が低く、「少人数教育」の環境としては慶應義塾大法学部がやや優位といえる。
 なお、学生がどれだけ勉強しているかの指標の一つである「一人当たりの貸出冊数」については、慶應義塾大が明らかに多い。この数字は逆に中央大が低すぎであり、中央大のマイナスポイントである。

 実際の教育効果については、比較が難しいが、大学通信社が進学校の進路指導教員に「進学して伸びた大学」と「進学して伸び悩んだ大学」をアンケートしている。
 2014年10月に実施したアンケートでは、「進学して伸びた」と答えた数は、慶應義塾大が40人、中央大が19人、一方で「進学して伸び悩んだ」と答えた数は、慶應義塾大が6人、中央大が10人であり、高校側の印象では、慶應義塾大の方がより生徒を伸ばしてくれると感じているようだ。
 その他の比較としては大学通信による「入学後、生徒の満足度が高い大学」ランキング(進学校の進路指導教員が投票することで選定)において、慶應義塾大は5位(142ポイント)、中央大は28位(17ポイント)となっており、同じように、慶應義塾大がやや優位のようだ。

 上記を総合すると、充実したキャンパスライフという観点から見ると、慶應義塾大法学部が優勢である。しかし、いずれの項目も僅差であり、浪人してまで目指すべきである、というような差は感じられない。


「どちらが幸せな人生を送れる進路に進めるか」

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
法学部
中央大学
法学部
主要企業400社への就職率(%)大学201646.923.3
卒業生数(人)学部201511971446
進学者数(人)学部2015122213
進学率(%)学部201510.20%14.70%
公務員就職者数(人)学部201562254
公務員就職比率(%)学部20155.20%17.60%
警察官就職者数(人)大学2015数値なし28
国家公務員総合職(人)大学20159248
CA採用数(人)大学2014数値なし13
国会議員の数(人)大学20158731
上場企業の社長数(人)学部20066723
社長の数(人)大学2015117038534
社長になりやすさ
(社長の数/学生数)
大学20150.410.34
上場企業の役員数(人)学部2006409186
上場企業の役員数(人)大学20152153969
上場企業の役員になりやすさ
(上場企業役員数/学生数)
大学20150.0750.039

<大企業に入りたい>
 大企業社員として就職すれば、身分は安定し、給与・福利厚生などの待遇面での心配も少ない。その意味で、主要400社への就職率を比較材料として示しているが、慶應義塾大の方が23%ほど高い。これはかなりの差であり、この差だけみれば、浪人の価値があるといってもいいかもしれない。

<法曹(弁護士、検察官、裁判官)になりたい>
 法学部を選ぶのであれば、弁護士などの法曹になりたい人も多いと思うが、もし法曹として進路を希望することだけに限して比較すれば、中央大法学部の方が良い。
 法科大学院(ロースクール)が設立されて以後、大学別の司法試験合格者ランキングは当然のように「大学院」の数字となっており、学部レベルでのランク付けは難しくなっているのが現状であるが、「法科の中央」と呼ばれるだけあって、司法試験受験者・ロースクール進学準備のサポート体制の手厚さは日本一と言っても良い(学内に格安の予備校を抱えているほどである)。
 実際に進学率も中央大法学部の方が高く、その大半はロースクールに進学していると考えられるため、勉強仲間の存在など各種環境面で中央大が勝っているといっていいだろう。

<公務員になりたい>
 学部単体の公務員就職比率は、中央大法学部がかなり高い。公務員になることを想定しているのであれば、浪人せずに中央大法学部を選択するという判断もありである。
 ただし、国家公務員総合職を目指すのであれば慶應義塾大法学部をお勧めする。これまでの合格実績がかなりあり、各省庁に散らばっているOBの存在が、試験勉強時、入省後も有利に働くであろう。中央大法学部の実績も悪いわけではないが、やはり慶應義塾大と比べると見劣りしてしまうのが現実である。

<主要な就職先の比較>

慶應義塾大学
法学部
中央大学
法学部
みずほフィナンシャルグループ東京都庁
東京海上日動火災保険みずほフィナンシャルグループ
三菱UFJ信託銀行りそなホールディングス
三井住友銀行三井住友銀行
三菱東京UFJ銀行国税庁
三菱商事三菱東京UFJ銀行
三井物産ワークスアプリケーションズ
損害保険ジャパン日本興亜
埼玉県庁
東京都八王子市役所

 主要就職先については、大手金融機関が多い点は似ている。中央大法学部の方が公務員が多いのが一覧にも表れている。慶應義塾大の特徴は商社が多いことであろう。総合商社はMARCHからの採用は少ないため、商社マンになりたければ浪人してでも慶應義塾大に進学するべきであろう。
 全体的には、どちらも就職状況は良好といえるが、「早慶」と「GMARCH」の間で学歴フィルターをかけている企業があるのは周知の事実である。主観を交えていうなれば、民間企業に就職を目指し、その中でも超人気企業を目指す場合は、浪人してでも慶應義塾大法学部に入った方が良いと思われる。

<出世した先輩の多さ>
 双方とも名門大学であり、上場企業の役員などを「大学全体」として数多く輩出しているが、学閥面では慶應義塾大が圧勝である。繰り返しになるが、民間企業に就職するケースであれば、浪人してでも慶應義塾大に入る価値があると思われる。


<どちらの大学が頑張って「改革」しているか>

項目名数値単位数値年度慶應義塾大学
法学部
中央大学
法学部
国からの特別補助金支給額
(千円)
大学2015903,728596,960
学生一人当たり
特別補助金支給額(千円)
大学20153124

 大学教育の現場では、随分前から「改革の必要性」が叫ばれている(大手大学ほど、その改革が進んでいないともいわれる…)。その観点でどちらが頑張って「改革」しているかを、最後に見てみたい。ここで比較するデータは、改革を行っている大学に国から支給される「特別補助金」の額である。
 この数値を比較すると、慶應義塾大がやや優勢となっている。
 別の比較材料としては、大学通信社による2016年度「改革力が高い大学」ランキング(進学校の進路指導教員が投票することで選定)においては、慶應義塾大が9位(58ポイント)、中央大はランク外(21位以下)と、慶應義塾大が勝っている。

<まとめ>
 以上、慶應義塾大法学部と中央大法学部を比較してみてきたが、予想通り慶應義塾大法学部が優勢といえる。
 実際に両方に合格した人の選択を見てみてみると、慶應義塾大法学部に進学した人が96%、中央大法学部に進学した人が4%(サンデー毎日2014年7月20日号より)という結果が出ている。とはいうものの、本ブログにおいては、今回はダブル合格ではなく、「中大法学部に合格した人が浪人してまでも慶應を目指すべきか」という観点から考えてみた。その結果は、民間企業を目指す場合であれば「浪人すべき」という結論であり、法曹や公務員を目指す場合は、「浪人はしない方が良い」という結論である。いろいろ異論はあるであろうが、あくまで筆者の主観としてとらえていただければ幸いである(少なくとも自分の子供が同じような状況に置かれた場合は、上記のアドバイスをするつもり、ということです)。